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サモンドパーク (プレイヤー:小宮志乃)



小宮志乃は自分が意志の弱い人間であるとわかっていた。
人間というものは自分で自分の意思決定権を握っているものだと志乃は思うのだが、今の彼女は確実にそれを自身ではない別のものに握られてしまっていた。
志乃はまるで飼い主に引っ張られる犬のように、それに従い続けていた。
しかも志乃はその状況に安んじ続けることこそ、自身が見つけうる最良の快楽への道であるように見えてならなかった。
そう、自分があの人と一緒にいればこそ、自分は生きていていいのだとさえ、志乃は思った。

彼女を支配する者の名は「シノ」といった。


先週学校で配られたプリントの中に、確かあれについての注意喚起のための長たらしい無意味なプリントがあったはずだ。
そのプリントを要約すると、「サモンドパーク」は悪である、その一文でこと足りた。
「サモンドパーク」とは、いわば携帯の中で建設された仮想空間だった。
志乃が中学のときにも「サモンドパーク」は存在したのだが、今のようなむやみな叩かれ方はしていなかったように思う。
あまりの規模の拡大、若年層への蔓延に、大人たちの間では現在やたら警戒論が唱えられているらしい。
なんにも知らないくせに、志乃は思った。

「サモンドパーク」は志乃にとって究極の楽園だった。
自己実現できる唯一の場だった。
こんな自分をもてはやしてくれる人がいる場。
そこでなら自分が本当に自分になれる。
あの人と一つになれる。
「シノ」はその世界で暮らしていた。

志乃は自分が人見知りで大人しい性格であることで、今までずいぶんと損をしてきたなと、自分の過去を振り返ることができる。
勉強も得意がるほどにできず、運動にも面白みを感じられず、そして器量の良さにもたいして恵まれなかった。
志乃は生まれついてのこの性質のおかげで、こっちの世界で十分な満足感を得たためしがない。

だから親から10歳の誕生日プレゼントで携帯電話を買ってもらったときのことは、今でも鮮明に思い返すことができる。
それは志乃の片手で納まるほどにもかかわらず、志乃の半生より広かった。

志乃はそれに触れるまでネットやらゲームやらと一切接点を持たず暮らしてきたのだが、やはりそれらはすぐに志乃をとりこにしてしまった。
今ではそちらのほうが現実なのではないかと志乃に妄想させてしまうほどである。
志乃は完全なネット依存症だった。

ここ数年、特に志乃が好んでいる遊び場が、例の「サモンドパーク」だった。
簡単に説明するとそれはゲームとコミュニティとショップが結合したような、まあ悪く言えばよく見かける形式のモバイルポータルサイトだった。
しかしその普遍性と、依存度の高さから、利用者が中高生を中心に急増、犯罪までも蔓延しはじめ、最近よくマスコミの恰好の叩き台になっている。

システムを簡単に説明すれば下記のようになる。
プレイヤーはまずはじめに「サモンドパーク」に会員登録し、アバターと呼ばれる自分の分身といえるキャラクターを制作する。
無数にある顔のパーツ、髪型から、自分に似せた外見、または全く別の理想外見を完成させる。
その自分の分身に、これまた無数にある服、帽子やらメガネなどのアクセサリーを、「サモンエン」と呼ばれるこの世界で流通する疑似通貨を使い、購入してあげる。
プレイヤーが最初にやらねばならないのはこのアバターの見た目の決定である。
ここまで来るとプレイヤーたちはそのアバターがあたかも自分のペットか何かのような、親密な愛着を持ち始める。
これがアバターへの投資意欲をかき立てるのだ。
もちろん初心者プレイヤーが満足しきれるだけの多量の通貨を持っているはずがなく、次に彼らがやらねばならぬのは金稼ぎだ。
この世界でこれを得るには様々な方法が存在しているが、サモンドパーク内のゲームで勝利するのが最も一般的だ。
他にもサモンドパークから現金でサモンエンを購入する方法、サモンドパーク内の広告をクリックして得る方法、友人を紹介する方法、スポンサーサイトに会員登録する方法など、無数にあるが、やはり難易度の高いゲームで勝利し大金を稼ぐことは、この世界で最もハイステータスな仕事だった。
これで得た大量のサモンエンを現実世界で他プレイヤーに現金で売る、いわゆるリアルマネートレードを生業としている輩も少なくなかった。
現金で親の許可なく勝手に大量のサモンエンを購入してしまう子供たちの存在も、このサモンドパークの一問題点となっていた。
まあしかし、ほとんどのプレイヤーたちにはそんな生活は縁のないことで、各々自由にこのアバターを操作し、ゲームで遊ぶもよし、交友を広げるもよし、買い物を楽しむもよし、好き気ままにこの世界を楽しんでいた。

志乃は自身のアバターに自分と同じ「シノ」という名を与えていた。(「シノ」は彼女の最もよく使うハンドルネーム)
志乃は他の多くのプレイヤーと同様このアバター、シノがかわいくて仕方なかった。
稼いだサモンエンを惜しげもなく使っては、安くはない服を次々と買い、彼女を着飾らせることが、自分のあの世界での優越を確信させてくれる。
志乃が最も気に入っているコスチュームは、去年のDior冬のオートクチュールコレの紅色のドレスを再現した一品だった。

志乃は自分のように日替わりでアバターを好きに着せ替えできるプレイヤーは、自分の同世代では珍しいように思う。
志乃は自分のアバターが確かにあの世界では人々の憧れの対象の一人となっていることを知っていた。
それは彼女のアバターの外見からだけ来るものではなかった。
なにより志乃はゲームがうまかった。

この自分に対して向けられる憧れのまなざしは、現実世界では全く自分の縁のないことであるのも、志乃は知っていた。
サモンドパークに行けば誰もが自分を注目し、誰もが自分に気に入られようとしていた。
現実世界で自分の経験しうる余地もないような甘い時間を与えてくれる場所。
それがサモンドパーク。
だからサモンドパークはやめられない。

志乃はシノとなってその世界でその世界の友人たちとともに生きる幻を夢見ていた。


シノと私は全く正反対だなと、志乃は思った。
それは鏡の前の二人のように表裏一体にして正反対。
二人は永遠に同じ世界で出会うことはないのだろうと、志乃は悲しく思った。

それ以前にシノは絶対に私のような人間になりたいはずがないだろう。
私のような生きる価値もないようなみじめな人間に…
シノの高笑いが聞こえる気がする。

現実世界では自分は寂しい毎日を送っていた。
ゲームに明け暮れる毎日で、勉強にあてる時間など残っているはずもなく、また学校への興味などとうに失せていた。
親はそんな志乃を心配していた。
携帯ばかり眺め、親指を動かし続ける娘の姿は、誰の目から見ても異常だった。

親は娘の将来を思って、娘の携帯電話の契約を打ち切った。

これははたから見ればもう遅すぎる手立てであった。
志乃はすでに重度のネット依存者として完成してしまっていた。

志乃はこの勝手極まりない契約解除に激怒した。
怒り、泣いて、叫んで、最後志乃はつかれて自分の部屋のベッドにうずくまった。
なんなのだろう、あるはずのものがないというこの苦しみは。

普通の女子高生で、アルバイトもしておらず、親に食べさせてもらってる身の志乃には、この契約解除の意向をのまざるをえなかった。
携帯のない生活、それは志乃にとって地獄の苦しみだった。

テレビで麻薬依存患者の特集を見ることがあったが、麻薬を断ち切られた彼らの苦しみもがく姿と、きっと自分と同じだろう。
それだけ依存から抜け出すことは並大抵のことではないのだ。
ほとんどの者がまた麻薬に手を出してしまう。
それが自然なのだ。

麻薬依存患者が毎日麻薬を思うように、志乃は毎日シノを思った。


シノになることのできない自分は、蝶になれないさなぎのようなもの。
身動き一つ取れず、そのまま干からびてゆくだけ。


夜の通学路の歩道を、その干からびきった自分が歩いていた。
ああ、この日は風が痛かった。

いつものように切りなく走り続ける車のまぶしいヘッドライトから逃れるため、志乃は下を見て歩いた。

なんてみじめな自分…

渡るべき歩道橋にさしかかり、いやいや顔を上げる。

そして階段の前の存在に志乃は思わず息をのんだ。



真紅に羽ばたき波打つものはまるで蝶のよう。
ああ、なんてあなたにはそのドレスが似合うんだろう。

そこには鏡の世界の住人が、「シノ」が間違いなく立っていた。
私を見つめ、笑んでいた。



「シノ…!」

そのあまりの満ち足りた姿に、私が抗うことなどできるはずもなかった。

幻のような彼女はその紅い衣をたなびかせながら、私に背を向け、階段を足早に上っていく。

「待って!シノ!」

彼女が私を置いていってしまう。
携帯を失くした自分はもう二度と彼女に会えないだろう。
やっとあなたに会えたのに!
待ってください!
あなたと一緒にいたい!

彼女を追って階段を上る。
もう階段を上りきった彼女は、必死で追いかける私の姿を、哀れみとも嘲笑ともつかない笑みで見下して、歩道橋を渡り続ける。

「シノ!」

歩道橋をちょうど半分進んだあたりで、彼女は足を止め、私を鋭い視線で迎え入れた。

「シノ…」

私はこの出会いに感謝しながら、彼女に歩み寄り、手をゆっくりと伸ばした、彼女に向かって、彼女に触れようと。

その指先がつくかつかないかのうちで、彼女は私を誘うような表情で、地面を蹴ると、彼女は私の目の前で、なまめかしいイルカが空中に飛び上がるようにのけぞりながら浮かび立ち、歩道橋の手すりから、紅い羽を激しく波打たせながら、夜の車線に、落ちていった。
彼女はそのとき私を見つめ、確かに微笑んでいた。

「シノーーー!」

私は歩道橋から彼女をつかみ取ろうとあわてて手を伸ばしたが、ドレスの一切れにも触れられなかった。
私はすぐに手すりによじ登り、シノを追って、跳ね上がると、空へ、車道へ、
落ちていった。


Welcome to Tokyo Real PlayStation...


このとき私は頭は目の前のシノのことでいっぱいだった。
後先のことなど、考えなかった。


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