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ICO (プレイヤー:須藤瞬司)


私が目を覚ましたのは、真っ白い病室のベッドの上でだった。


何であれで死ななかったのかは、いろんな人に様々説明されたが、自分でさえ納得できるものはなかった。

私は歩道橋から飛び降りて、走行中の車のボンネットに激突して、止まった。
ボンネットがクッションの役目をしていたのではないか、と担当医は言っていた。
それにしても私の怪我は事故の内容から考えて、明らかに軽かったようだ。
警察も医者もみんな首をかしげていた。

私の体は今、様々のところを包帯で包まれている。
切り傷、すり傷、打撲…
確かに節々痛い。
でもそれだけだった。

親はずっと隣で泣いていた。
あの晩の私の行動は、自殺として片付けられていた。
ネットを禁じられた極度のストレスによる自殺。
別段私は他の説明をするつもりもなかった。
面倒くさいし、なんの意味も持たないだろうから。

担当の医者は、娘さんがこれだけの怪我ですんだのは軌跡だと言っていた。

それを聞いて親はまた泣いた。
もう、いつも泣くんだから。

でも本当に軌跡なんだろうか?

シノに会えたのも軌跡。
私を助けてくれたのも、おそらくシノだったのだろう。

でもシノはあのとき、私を受け入れてくれたように見えた。
一体シノはどこへ行ったのだろう?

彼女は例の極度のストレスからくる幻覚?

私はあの日の彼女の意味についてだけは、誰かに尋ねたくてしょうがなかった。
親には絶対話すことはないだろうが、あの担当医の医者にはどうだろうか?
でも話せば彼は私を異常者だと思うだろう。
即、精神科送り?
でもあの人は優しそうだった。

医者の名前は確か須藤瞬司といった。


須藤瞬司は金に困っていた。
長年かけて十分貯めたはずと思っていた資金も、そろそろ底がついていた。
それよりもなにより人員の問題のほうが重大だ。
こんな少ない金で、優れた人材の人件費などまかなえるはずもなかった。

はがれかけたワックスがゆがみながら人々の足元を映しこむ、明るすぎる床をカツカツと歩く。

最近こっちの仕事のほうは、一時期に比べればそう忙しくはなかった。
受け持つ患者もそう問題な者もいない。
歩きながらペラペラとカルテをめくる。

そういえば最近やって来たこの患者には少し気になるところがある。
この小宮志乃という女の子は、まあよくある飛び降り自殺未遂でここに運ばれてきたのだが、怪我の度合いが事故の規模に比べて、明らかに軽いように思った。
須藤は事情聴取に来た警察に見せられた事故現場の写真を思い出す。
車両のボンネットには少女が激突したと思われる激しい大破のあとに、フロントガラスは全面ひび割れ亀裂が走り真っ白になってしまっていた。
少女が落ちた歩道橋の高さは一体何メートルだったのだろうか。
間違いなく落ちて無事ですむ高さではなかったはずだ。
打ち所がよかったとしても、骨折一つしないなんて…
須藤はあの自殺未遂は、彼女の狂言かなにかなんじゃないかとさえ思った。

彼女の病室につくとトントンとドアをノックする。

「おはよう。小宮さん」

少女は顔を上げた。


須藤は彼女をあまり表情のない子だと思った。
まあ、自殺なんかする子に明るい子がいるはずもないのだが。
おそらく彼女の両親には退院する前に精神科への治療を勧めるだろう。

少女はネット中毒者だそうだ。
今回の自殺もそれが原因だとか。
彼女の両親は携帯ゲームに熱中する娘を正気に戻させるために、携帯を取り上げたそうだが、まさか自殺までするとは夢にも思っていなかったそうだ。

たかがゲーム、全くそれだけのことでせっかく親からもらった命を自ら捨てようとするなんて…
最近の子供は忍耐がないというか、人生をなめきってるというか…
とにかく、この少女にはあまり感心しないな、と須藤は思った。


まあ、それは自分も同じか。


須藤はそう気付くと笑ってしまった。

「お母さんはどこ行かれたの?」
須藤はなるべく明るい声で尋ねた。

「さっき二階の売店に行きました」
少女はさらさらと答えた。

「そう、じゃあすぐ帰って来られるね」

須藤は窓際で日差しを浴びた。

「退院ももうすぐだから、お母さん、はりっきてるんじゃない?」
そう尋ねると、少女は下を向いた。

プルルル

自分の携帯だ。
少女に「ちょっとごめんね」と言って部屋の隅で胸から携帯を取り出す。


ああ、その着信相手には、思わず冷や汗が出てしまった。

まさか
なぜ
今になって
こいつが?





「もしもし」

須藤は少しためらって、その電話を取った。

「久しぶりだね、須藤君」

昔のままのしゃがれ声だった。

「お久しぶりです」

「ふふ、怒った声だね」

電話越しの老人は笑った。

「本当珍しいですね。あなたからわざわざご連絡くださるなんて。どうやら取るに足らない用件じゃなさそうだ」
「もちろんだよ」
老人の答えは早かった。

「なんなんです?私のところのさえない成績についてわざわざご忠告でも?」
そうなんだろ、と須藤は思った。

「…ところで今そっちは何時かな。今海外にいるんでね」
老人ははぐらかす。

イラつきながら壁にかけられた時計を見る。
少女とも目が合ってしまった。
須藤はすぐによそを向くと
「10時半ですよ」と早口で言った。

「10時半?いやまだなってないよ。23分じゃないかな」
老人はまだこの話題を引っ張りたいのか。
須藤はこの問いに何も答えなかった。

「まあ、須藤君。『あれ』のほうの結果は気にするな。映像も見たが、あれは仕方ない。運が悪かったんだ。君の責任でもないよ」
こんな決まりきったなぐさめの言葉なんぞ須藤はちっとも望んではいなかった。
今、彼が喉から手が出るほど欲しいのは
「ところで金のほうは大丈夫かな。大分負けが込んでるから一円一円惜しいだろう?君にもやっとプレイマスターの大変さがわかってもらえそうだな」
この老人はきっと電話越しでにやついている。

「おっしゃる通りです」と須藤はこの老人を喜ばせることにした。
今はなにより金のことが先決。
信条やらプライドやらは横にやるべきなんだ。
今はこの男に金を借りるしかないだろう。
おそらくこの老人も金の話を持ちかけに自分に電話しに来たことは見え見えだった。

世の中、金か…
須藤はこの老人のような大富豪を、昔は虫のように嫌っていたはずだった。

「ああ、ちょっと待ってくれ。十秒前だ」

「え?」
須藤は老人の「十秒前」という言葉に戸惑った。

「でも須藤君、全く君はついてるよ。いつもいつも君には神風が吹いてるな」


「昔も…今も…」


Game Start!

ソフト:ICO 
メーカー:ソニー・コンピュータエンタテインメント
ASIN:B00005RIVU
発売日:2001/12/6
機種:プレイステーション2


須藤の胸の中でざわざわとしたものが騒ぐのを感じる。
この独特の空気は…

気付くと遠くで鋭い悲鳴が次々と聞こえてくる。

ドドドド

これは、マシンガンだ。
須藤ははっと全身の毛が逆立つのがわかった。

昔の感覚が…


すぐに院内は異常な喧騒で包まれた。

「え、今の音…」
少女でさえ小さくとまどった。

これは…まさか…

須藤はあわてて窓から首を出し銃声のした方向を見る。
逃げ惑う患者やら看護婦たち。


須藤にはこの状況が一体何を意味するのか、明らかにわかった。
老人がわざわざ自分に電話してきた意味も…

ドド

また短い銃声。

須藤は電話に向かって
「始まってるのか!?ゲームが!?」
と大声で老人を怒鳴りつける。

銃声と異常な病院内の喧騒、そして優しいはずの担当医の怒鳴り声におびえて、少女はベッドの上で縮こまった。

「まあ、落ち着いて…」
老人はなだめる。

「落ち着く?あなたが仕向けたんでしょ?ゲームを…。
しやしませんよ、私は。

もうプレイヤーはしねーんだよ!!」


少女は白いシーツに顔を隠した。


「ははは」
老人は高く笑った。

「何がおかしい」

「須藤君、気付かないのかね!?クリア条件が!

君はもうある意味クリアしてるんだよ!」

「は?」


バタバタと激しい足音が急激に近づいてくる。
須藤は思わず電話を耳から離し、身構えた。
右手は懐の拳銃へ向かう。

シーツを頭までかぶった少女は、ここからでもはっきりわかるほど震えていた。
恐ろしいんだろう。
この死のゲームが。

当たり前だ。
普通の子供なんぞ、みんなこんなものだ。

足音は案の定この病室の前でで止まった。


ドアはいきなり蹴破られた。
ずらずらと銃を構えた者たちが踏み込む。

部屋に入った敵プレイヤーの人数は2,3人というところか。
しかし他にも院内中にうじゃうじゃいるんだろう。
須藤はやつらに見つからぬよう病室の死角にうまく隠れこみ、様子をうかがう。
手には拳銃を握りしめて。


「小宮志乃さんですね?」


銃を携えた男の一人は、ベッドの上で非力にシーツに包まった志乃の前に立つと、丁重にこう尋ねた。

志乃はじっと動かずただじっとシーツにくるまれている。

何をしてる?須藤はやつらの明らかに予想外な行動に戸惑った。
自分をねらいに来たなら、なぜまず自分を探さないんだ。
なぜあの子供に話しかけてる?
そしてなぜあの患者の名前を知っている?

須藤はマシンガンの男の顔には見覚えがあった。
間違いなく、『あれ』の関係者だ。
プレイヤーである。

「志乃さん…」

男は志乃に手を差し伸べながら近づく。


プルルル


須藤の右のポケットに入った携帯電話が、憐れにも鳴った。

プレイヤーたちは着信音の鳴り響く須藤のいる棚に振り返る。

須藤は棚の影で自分の不運をつくづくうらんだ。

プレイヤーたちが銃をガチャリと構え、不審に鳴り響くの携帯音の基へと近づく。
須藤は全てを覚悟した。



「せんせい…?」

志乃はシーツから顔出しか細い声をあげた。


プレイヤーたちは少女に振り返る。


やつらに生まれた一瞬の隙。
かつてのプレイヤーはこれを見逃さなかった。

須藤は棚を蹴飛ばし、転がるように、慣れた手つきで銃を構えて、引き金を引き、

空気をつん裂くような銃声が数発…



「キャーーー!!」

志乃は聴いたこともないもない重い銃声と、バタバタと倒れ始める人々の姿に耐えることなどできなかった。

前を見れば、先生が、いつも優しく自分に話しかけてくれた先生が、
おそらくこの男たちの命奪ったのであろう拳銃を片手に、
一人立っていた。

彼は恐い顔で志乃をじっと見つめて、



「小宮志乃、君は『リアルプレイステーション』を知っているか?」
と言った。


私は何も言えるはずもなかった。


先生は私が答えないとわかると、鳴り続ける携帯の無機質な着信音を止め、

「もしもし」と電話に出た。


「小宮志乃ー、志乃ー、確か君の担当してた子でいるんじゃなかったけ?しのー、シノー、どこかで聞き覚えがある名前だと思わなかったかな?」
老人は愉快そうに須藤をからかった。

「そうシノ、『サモンドパーク』の有名プレイヤーで例のクリア不可能物件のクリア者のうちの一人。君も知ってると思ったんだがな。その子が入ってきたんだ。欲しがるマスターは多いんじゃないかな?今回のゲームはその子の争奪戦も含んでるんだよ」

「クリア条件は小宮志乃をこの病院内から自分の陣地へ移動させること。敵はさっきのドンパチでお互い大分消しあってくれたみたいだから、須藤君、君にはチャンスじゃないかな?彼女を引き抜けられれば。プレイヤーも底ついているはずだよ。
事実、私は君にこの好機を伝えに電話したんだ」

須藤はここまで聞き終わると厳しい顔で電話切った。

そして振り返り、


「小宮志乃、今日から君は人間ではなくなった。
君は機械であり、兵器であり、私の駒だ。
君にはもう自己の意思というものはあってはならない。
ただ私の指示だけを聞き、私の命令に絶対服従していればいい。
できないとは言わせない。
できないならばここで死ね。
この世界に入ったならば、できない者は死ぬしかない。
生きたいのならば、勝ち上がりたいならば、ついて来ることだな、この私に。

これから私のことはマスターと呼べ」


志乃は自分の医者の豹変と、このあんまりな言葉に表ではただただ圧倒され唖然とするのだが、自分の心の奥底、深い深いところから湧き上がる奇妙な陶酔に自分でも戸惑ってしまう。
それは社会という鎖につながれ、眠りつづけることを強制された化け物のうなり声、その低い異常な騒音が志乃をふつふつと支配し始めるのを感じる。

ああ、シノが笑ってる。


「ステキ」
志乃はにっこりと須藤に微笑んだ。


須藤もそれがわかると、満足げに志乃に微笑んだ。


ドンドン

遠くでまた銃声が聞こえた。

須藤は
「行くぞ」と言って
少女の手を引いた。

少女の白いワンピースのひだが、ひらひらと明るい病室で舞った。

二人は日がさんさんと差し込む、長い長い廊下を、共に走っていく。
少女は数日間過ごしたはずのこの場所が長年自分が待ち望み、恋焦がれ続けていた、あの世界であったことにはじめて気付いた。
そして手をつないでいるこの人物こそ…

「マスター…」
少女ははじめてこの男をこの世界の名で呼んだ。

「あなた、私と同じね」


男は笑った。
まさにその通りだろうからだった。


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