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アンティクリスト (プレイヤー:町田満貴、阿部紗鞠)


「頼む!見逃してくれ!!」

男は闇の中でそう叫んだ。

ひざまづき手をつけたコンクリートは異様に冷たく、遠くの壁に切り裂かれて差し込むだけの電灯は悲しいほど頼りなかった。
スーツはだらしなくへばりつき、ネクタイは地に落ちた。
助けなど望めるはずもなかった。
なにより駐車場はこの時間になれば誰も来ることはない。

自分とこいつら以外は。

「何を恐がってらっしゃる?僕たちはただあなたに事情を聞きに参っただけなのに」

この男は笑っていた。
壁に切り取られた電灯は弱弱しく直線的に男の顔に映って、にやけた顔がわかった。
自分の土下座姿はさぞ面白いものだろう。

「わかってる!わかってるんだ!!上がお怒りなのも!何をどう説明されたかは知らないが、あれは確かに事故だった!俺の責任じゃない!」

そうだ、なぜ、なぜ、俺がこんな目に…
俺はどこからどう誤ってしまったんだろう…。
とにかく今はなんとかこの窮地をくぐり抜け、先へ進まねばならない。

「お前も気持ちはわかるだろう!?」

それには相手の同情を引くのが一番かと思われた。
声は夜の駐車場に響いている。

「わからないな、僕には」

無機質に男は答えた。

困ったことに相手の理解は得られなかったようだ。
いや、むしろ…

「今僕たちにわかったことはどうやらあんたは人種が違うようだ」
男はにじり寄った。

「選ばれたるRPSプレイヤーとは」

男は無慈悲ににその判断を自分に下した。
男の後ろの影も、珍しいものでも見るように、こちらを見ていた。

「あんた、向いてないよ。このゲームに。だから終わりにしてやろう」

男はそう続けるとまた一歩、自分のもとへ、足を近づける。
この男の声はいらだっていた。
同情を請う言葉は逆効果だったようだ。
自身とこの憐れな自分を一緒にされたのが気に喰わなかったらしい。
直線の電灯は男の体をなぞってうごめく。

「待ってくれっ!俺はまだやれる!!次のゲームまで待ってくれ!次なら確実にクリアできる!」
必死で声を張り上げた。

「俺にはまだコンティニューがある…!まだ生きれる!マスターも不用意な俺の処分は許さないはずだ!!」

これはハッタリだった。
自分にはもうただの一つもコンティニューなど残ってなどいなかった。
むしろコンティニューが自分に許されていたなら、マスターも自分をこんな理不尽な処分を下すはずもなかった。
くそくそくそ、なぜだ、あそこまで指揮に尽くした俺がどうして…
「アンティクリスト」を仕向けられるなんて…
あの男は完全に俺を捨てやがった。

とにかくこの嘘はこの場では致し方ないことだった。
なんとしてでも、この状況を終結しなければ…

男の足は思ったとおり止まってくれた。
そう、俺はまだ終わりではない…こんなところで…


「嘘ネ」


女の声は奇妙に響いていった。

「コノ人、嘘ツイテルワ」

声は近づく。

「コノ人ニ、コンティニューナンカモウ残ッテナイワ」

鳥肌が立った。
なんだこの女は…!?

自分はこのゲームというより実験のような擬似戦争を通じて、死線というものは何度も越えてしまったはずだった。
罪悪感、恐怖心、感情など、とうに枯れきってしまっていた。
でも今ふつふつと、嫌な気分が生まれ自分に取り付いてゆく。

この女の声は、耳に恐ろしい。

女の影はゆっくりと男のもとに近づくと、くるりと男の腕に巻いて、こっちを見る。
ここからは暗闇に浮かぶ女の姿が薄っすらではあるが、よく見えた。

女は長く黒く光る髪と猫のような目を持っていた。
その仮面のような顔。
彼女はまったく日本人ではなかった。
アジア人の顔立ちとは明らかに違う。
彫りの深い顔に影がくっきりと分かれ刻まれる。
彼女はまるで人工物のように完全だった。

ああ、こんな美しいものがあったとは。

この女は何人だろうか?
アングロ=サクソン系のようにもラテン系のようにもゲルマン系のようにもノルマン系のようにもケルト系のようにもスラヴ系のようにも見えなかった。
イラン系のようにもトルコ系のようにもアラブ系のようにもユダヤ系のようにも印欧系のようにも見えなかった。
いやもう彼女は何人どころか、人間ですらないのかもしれぬ。
ぞっとするような妄想が生まれるほど、女は奇怪だった。

俺の死神だ…そう思う。

「あなたもわかってますよね。僕たちがここに呼ばれたってワケが」
女を従えた男は晴れやかに言った。

「それはつまりあんたの、『ロスト』だよ」

男の顔は光と影に分かれて、いっそう明らかに映し出された。
男の手に持つ濁白色の銃も今でははっきりと見えた。

だから自分もゆっくりと懐へと手を伸ばす。

「『アンティクリスト』、俺を殺すか?」

覚悟を決める。
声は返ってきた。

「殺ス?違ウ。コレハ解放ヨ」
「恐怖カラノ解放」

この女を黙らせろ。

「戻シテアゲルノ」
「役立タズハ肉片ニ」

この女を撃ちぬけ。

「弱肉強食、敗者淘汰、コレ皆自然ノ摂理ネ」

うるさいうるさいうるさい。
「ならばお前らが先に逝け!!」

女の手には何も武器など持ってはいなかった。
自分が銃を男より先に放てば、まだ勝機はあるはず。
あの「アンティクリスト」から逃げ延びる機会が…!

つんざくような銃声は空に響き渡り、暗闇に不用意に飲み込まれていった。

自分はただ目の前の光景を黙って見ているしかなかった。
そして最期に悟った。
ああ、ここでは俺は狩られるほうの人間だったのだと。
過去あざけり、いたぶり続けた無能者どもと何一つ変わらない存在でしかなかったのだと。
絶対者にとってはあるのは弱者と同等者しかないのだと。


「解放してやろう、お前を」
「ダッテ私タチ、ソレデコソ『アンティクリスト』、救イ主」


「お前はゲームオーバーだ」


● ● ●


銃声が何度か交差し響いたそのビルの駐車場の外では、住民が通報したのだろうかパトカーがポツポツと何台か停まっていた。
何も見つかりはしないのに…そう帰り道をゆく男は勤務を律儀にまっとうしようとする警察を哀れんだ。

銃は嫌いだな、小うるさい。
特にこんな閑静なベッドタウンの一角では、あの音は明らかに目立つ。
誰かがあざとく嗅ぎつける、余計なものまで。
どうせ等しく殺すなら、あんな簡易なものではなく、もっと原始的な、もっと欲情を掻き立てるたてるものであらねばならない。
だから自分は本来刃物を好んだ。

「町田サン」

外灯が夜明け前の青くひんやりとした空気を無意味に照らしている。
街路樹は点々とこの開けた道路をなぞっていく。
二人はそのどこか現実味のしない道を歩いていた。

「退屈ネ」

町田満貴は女のその言葉に笑ってしまった。
それは自分が日ごろ感じていたことだったからだ。

「シャマリは嘘が下手だな」

表情を隠したまま振り返らずにそう言うと、シャマリはまた気に入らないことを言ってしまったのかと少し困ったように満貴を見つめた。
シャマリがこう言ったのは別に日々の仕事がつまらないからでも、満貴のような殺人狂のように血を見たりないわけでもなかった。
シャマリは満貴となんとかコミュニケーションをとりたかったからだった。
だからわざと自分の気になるようなことを言うのだろう。
満貴もそのことくらいはわかっていた。
阿部シャマリが任務で一番困っていたのは、このひねくれた仕事相手とどう接していいものかだった。

二人の間を沈黙が流れた。

男はとうとうしかたなく立ち止まって女のもとに振り返ってしまった。
早朝の青い空気に包み込まれこの女は嫌に幻想的で、ゆるい風はわざとらしくゆっくり女の髪にまとわりついた。

まるで映画のワンシーンみたいだな、と満貴は思った。

この異常なほど美しい女とどう接すればいいのかいつもいらだっていたのは満貴も同じだった。
今でこそ多少見慣れたとはいえ、この女は一度目をやれば離すことが難しいほど、奇怪に美しかった。
最初阿部からこの女を相方として紹介されたとき、驚きを通り越して唖然としてしまったことが思い出される。
何を考えているんだ、こんな日本語も一言もしゃべれない外人女と一緒にやれるかと。
この女を連れて街を歩くだけで悪目立ちして、とても仕事どころではないと。

世の男というものは美女とご一緒することを大変喜ばしいものと認識するだろうが、もう自分にはこの女を自らと関連するものとして受け止めることができなかった。
恋愛対象外と言うのは簡単だったが、彼女は自分にとってもうすでに人間という枠を超えてしまっているといったほうが近いなと満貴は思う。
例えるならミロのヴィーナスやニケの女神とともに歩いている気分だった。

太い眉の下のアーモンド型の潤んだ吸い込まれるような大きく漆黒の瞳を上目づかいに自分に向ける。
その瞳を長く豊富なまつげが隙間なく縁取って飾っている。
ギリシア彫刻のような深い表情。
黄金色の肌。
淡くとろけるような唇。
亜麻色の重厚な髪は嘘のように風にゆるやかに踊った。
白く薄いシャマリの衣服はピタリと張り付いて彼女の細く長い肢体がわかる。
まるで作られた人工物、アンドロイドのように不自然で、幻想的な光景。

それを見て満貴は妙な気分になる。

「どうだ、言葉にできないほど美しいだろう?」

「満貴、お前、俺がシャマリをいくらで買ったかわかるか?」
「シャマリは海外の狂気じみた異常実験の末のゲテモノ商品や須藤のような劣化コピー商品とは全く異なる!」
「唯一無二の我々の最終形態の一つ」
「満貴、お前もポーランドの最優性ヒューマノイドの研究実験事故の話は聞いたことがあるだろう?」
「彼女はその流出した生き残り」
「彼女は完璧だ」
「満貴、シャマリはお前へのプレゼントだよ」

止してくれよ、と満貴は思う。

しかしこの言葉はどうやら本当らしく阿部はこの外国の女をなんと自分の養女にしてしまった。
阿部はとことんこの女に入れ込んでいるらしい。
だからこそ下部の前線や外部で人目につく輩の内には入れずに、自分の日の下に置かれない最果ての部署に配属されたというわけだった。
この異端者処罰専門の「アンティクリスト」へ。

そんなに大事な娘ならこんな危険な組織に置くなと自分は思う。
結局あの男はこのとびきりの人形を見せびらかしたかっただけなのだろう。

ああ、だからこそあの男はこの女を自分のもとに置いたのか、そう思い至って、満貴は笑った。

シャマリもそれを見て安心したように、にっこり微笑んだ。
そしてささやく。

「デモ町田サントイルトキ、私楽シイ」

シャマリの時々見せるむせ狂うかと思うほど濃厚で狂気的な雰囲気を満貴は気に入っていた。
それを感じる時、満貴は彼女とあの異様なカタコトの言葉ではなく、もっと高位のなにかで密に繋がっていられるような気がした。
同調を感じる。

弱肉強食、敗者淘汰、コレ皆自然ノ摂理ネ。
うーん、いつ聞いてもいい言葉。
幸福に包まれる気がする。
これこそ我々の存在理由ではないか。

そして満貴はシャマリが自分以上に危ういものをはらんでいることも重々悟っていた。
この女と自分とは空気を奪い合う者同士であると。
絶望的な状況下に置かれ、身動きをとるべきでもないのに、這いずり回り、わざと危険に身をゆだねるのを何より好む。
やがて二人は虫の様に、酸素を喰らい尽くして、お互いを道連れすることを夢見る。

両者はお互い牽制し合い、恐れ、好んだ。

この女はその造形そのもの、神の創造物であって人に非ず。
「アンティクリスト」---救世主。
罪深き輩解放す。

この男は人の贖罪者、神の一人子にして地に落ちたり。
「アンティクリスト」---偽メシア。
暗愚の魂導かん。

東の空は秒刻みで白みはじめていた。
二人はいつものように微妙な間を保ったまましばらく見つめあう。
妙な雰囲気。

「ンフフ」
シャマリはたまらずに吹き出した。
こんな朝っぱらの、歩道の真ん中で、自分たちは一体何をしてるんだろう。

満貴も自分たちのこのふしぎな関係に笑った。

そしてあれほど自らの消滅を望んでいた自分が、今こう願ってしまう。
二人の関係が永遠に続くことを…


朝日に逃げ場を失った夜の青い空気は二人を高らかに祝福して、消えた。





アンティクリスト

新約聖書に登場する偽メシア。
サタンの使者とされる強力な悪魔。
世界が終末を迎える直前に現れ、大きな奇跡によって民を誘惑しつつ真の信者を迫害する。
ゴグとマゴグに率いられた悪魔軍団を従え、預言者エノクとエリヤを打ち破る---


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