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2



トボトボと海岸沿いの道を歩く。
右手には白いガードレールの向こうに広々とした海が日にちらちら照らされながら広がっていた。
潮の風が走る。
こんなよい天気になるなんて。
空も真っ青だった。

困ったな…。

強制状に同封されていた地図のプリントをいくら眺めても、この道が一体どこに当たるのか、少しもわからない。
潮風で紙がパタパタいうだけ。

まったくこの道は、なんという殺風景なんだろう。
場所を訪ねたくとも、コンビニ一軒ないなんて。
左手は白い金属製の壁が続いている。(何かの工場だろうか?)
通行者といえば車がちらほら通り過ぎるくらいだ。
ああ、向こう側にガソリンスタンドが見える。
そこで道を尋ねたほうがいいだろうか?
徒歩の自分が道を聞きにわざわざガソリンスタンドにトボトボ行くのは、気が引けた。
全く悲しい入学当日である。

そうこう遠くを眺めていると、白い壁も途絶えた寂しい十字路に、やっと通行者の後姿が見えた。
遠目で見てもそれは確かに自分と同じく学生だった。
この日この時間この場所で学生服を着た人間。
間違いない。

アソバセリア実験校の学生!

そう直感した。
時間も時間だったので走って近づいてしまった。
あの学校、期限に遅れたら何されるかわかったものじゃない。
ドタバタと走るにつれ、彼の姿もやっと少しずつ詳細が見えるようになってきた。
彼の手にもあの白いプリントが握られているようだった。

助かった!
彼についていけば何とかなるだろう。

長らくの運動不足のせいで息切れがひどい。
しかし道案内人を見つけて、なんとか目的地につけそうな雰囲気に安堵した。
案内人と気付かれない程度、50mほど距離を開けて進む。

まったくいい天気だった。
まだ四月だというのに初夏の香りがした。
風景はみんな原色だった。(人工物のグレイを除けば)
この道はどこか懐かしい。
現実味がしない、時間がゆっくり流れていくような…

案内には午後1時30分までに倫城ステーションというところに集合と書かれていた。
今はもう1時を過ぎている。

大丈夫なのか?

ちょっと不安になる。
大丈夫、彼が、案内人がいるから、と自分を落ち着かせて、前を見上げて頼れる案内人を見た。

歩道にどっぷりと座り込んでプリントを凝視している彼が小さく見えた。

ああ、嘘だろう。
まさか彼も迷ってるんじゃ?

コソコソとプリント類を整理している彼も、どうやらぐったりと近づいてくる僕に気付いたらしい。
立ち上がって、

「はあ、助かった。
やっぱりこの道であってるみたいだな。
他の生徒どころか人一人見当たらないんで、本当あせった」
とのんきに言ってのけた。

自分と彼とのこの出会いは、彼とは逆に安堵からあせりの復活以外の何ものでもなかったが、そんなこともすぐに吹き飛んでしまった。

彼はどこぞの芸能人かアイドルかと、見まごうばかりのきらびやかなお顔立ちをしていた。
いや、彼ら以上に、上品で、優雅で、どこか俗世離れした、そう、まるで宗教画に描かれた人物のような、独特の美しさがあった。
ああ、こんなことを聞いたことがある。
美しい顔といものは世界共通で顔の各パーツの比率が決まっており、その比率に正しく当てはまったものこそ美しい顔なのだと。
彼は間違いなく寸分の狂いもなくそれに当てはまっているはずである。
はっきりいえばこんな「道に迷った二人」とかいう状況にならなければ、絶対に話しかけらることのないような、自分とは全く縁のない人種だった。
自分は馬鹿正直に分厚い黒ぶちめがねをかけ、勉強ばかりやってきた、勉強馬鹿だった。
彼と話すのは、異世界の住人と話すように、緊張した。

「ぁー、実は自分も道に迷ってて…。
確かここら辺で左に曲がるはずじゃ…」

ばかばかばか。
もっと冷静に堂々と話せばいいんだ。
こんなところでうじうじと話していたら、あの「アソバセ」でやっていけるはずがない!
また、あの嫌な偏頭痛が始まってきた。

「うわー、最悪だな」
彼は端正なお顔をお歪めになった。

「今何時?」
そうお聞きになられたので、
「え、1時20分?」
と答えた。

「腕時計?
めずらしいね?」

ああ、マイナスポイント来たなと思った。
今時時刻を確認するのに腕時計はないだろう、自分でもよくわかってる。
しかし自分は、携帯やらポッドやらやほとんどの電化製品が発するあの異常電波がとてつもなく苦手で、どうしてもそれらを持つことができなかった。
それについては後で話すと思うが、とにかく普通の学生が持つような物さえ自分は持っていないことが多すぎた。
今日でさえこれからしばらく家に帰ることもできないのに、荷物という荷物は着替えや日用品をそろえても、軽めの手提げですんでしまった。

「今ここの地名とか、どこかわかるものある?」
彼はそういいながらエナメル加工の大きな白い正方形かばんのチャックを開ける。
自分は辺りを見回して、日頃まるで存在しないもののように目に入っていない電柱郡にくくりつけられている青い地名標識に書かれた地名を読み上げた。
「倫城東?」

「結構近づいてる?」
ガードレールに腰掛けた彼はそう言うと、かばんから取り出された、黒いノートパソコンのようなものを開けると、キュインとそのスイッチを入れた。

僕はあまりにひどい頭痛に前のめりに倒れそうになった。
強い電化製品電波が脳をぐらぐらと煮立ててゆく。
頼むからやめてくれ!
そう、初対面の、それも彼に言えるはずもなく、自分は普通に何事もないようにただ耐えるしかなかった。
自分は極度の電化製品アレルギーだった。

頭痛のため朦朧とした意識の中、どうやら彼はなぜか自分を呼んでいるらしい。
どうやら近づいてあのノーパソを見ろといっているらしい。
こ、殺す気ですか?
あんな強電波発生機に近づけなんて、そう頭では思いながら殿上人に言われたもののようにふらふらと近づく。
ノーパソの画面には詳細な写真地図が写っていた。
「ここが目的地で、ここが俺らがいる場所ね。
ここから左に曲がって、駅に到着。
ヤバイね、間に合いそうにない」

そういってお顔を自分に向けなさる。
自分は生死をさまよう者の昇天した顔をしていたと思う。

「大丈夫?
顔色悪いけど」
とおっしゃると、やっとノーパソの電源を切ってくださった。

はあ、大丈夫…!!
おかげさまで久々に死ぬかと思ったけど!
そう内心叫びながら、なんとか取り繕う。
とにかく道がわかったらしくて、今日はそれでよかった。

もう1時30分は過ぎ去っていた。
彼ともと来た道を戻る。

「遅れたら、何か懲罰でもされると思う?」
不安を正直に彼に言ってみた。

「懲罰…?逮捕とかされるんの?」

何年か前のニュースで、アソバセに入学を拒絶し逃亡した学生が逮捕されたというものを思い出してしまった。

アソバセリア実験校…
それは政府によって設立された実験的な学園都市である。
東京湾に浮かぶ人工島を丸ごと使ったその要塞では、全国から無作為に選ばれた6~18歳までの男女を強制的に収容し実験的な教育法を施すといわれるが、その実態は政府によって隠され、明らかにされてはいない。
子供のための監獄とも、国家的な天才養成場とも言われる。

マスコミなどの報道によれば、入学強制が実行される子供たちは、やはり政府が言うように抽選で選ばれるというものではなく、作為的なものがあるそうだ。
実験校生の詳細は公表されていないが、異常な問題児の割合が圧倒的に高く、政府はそこで問題児たちの矯正実験を行っているのではないかと噂されている。

世の中ではこの学校に入りたくて仕方ないという類の人間がごまんといるらしいが、まさか自分がこんな学校にお世話になる日が来るなんて…。
自分はあんなに努力してきたのに…。

「走る?」
彼はそう言って重そうなかばんを抱えながら駆け出していった。

不意をつかれたが自分もとろとろしている時間もない。
強電波の衝撃もだいぶ回復してきたようだったから、自分もぱっと駆け出した。

日がまぶしい。
アスファルトは真っ白に焼かれていた。
しかし、本当におかしな道だ。
予習として訪れこそしなかったが、地図は何度も見て、自分なりに慎重に出かけたはずだ。
どうして道になんか迷ってしまったんだろう?

「ヤバイか?遅れすぎかも、俺ら」
この人は楽しそうに言った。
「ちょっ、ちょっと待って…!」
日ごろの運動不足のため、息切れがひどい。

「ふう、仕方ないなー」
彼は立ち止まると、くるっとこっちを向いてバテバテの僕の元に歩み寄りはじめる。
日は彼の左に照って、風は彼の髪を舞わせた。
彼はまっすぐで自信に満ちた目線と歩みを僕のほうへ向け、口元は緩く微笑んでいる。
僕はせめて呼吸は整えようと緊張してしまった。

彼は僕の顔を覗き込むと、
「名前は?」
とたずねる。

「えっ…自分?」
少し戸惑った。

「木島…木島誠です…」

「マコト…」
彼が自分の名前を言っている。

「じゃあマコト。これプレゼント!」
そう言うと彼はバッシっと僕の太ももを一発平手打ちした。

「……!」
彼のそのあんまりにも突然で意外な行動に言葉も出なかった。
痛みが足に広がりだす。
何!?なんなんだこの人!?

「はい、急いで!」
彼は何事もなかったかのようにまた走り始めている。

一方自分は、理不尽に彼に叩かれたという奇妙なショックの余韻がまだ足に残っていて、急には駆け出せなかったが、アソバセ入学という目の前に広がった漠然とした不安が再び蘇ると、自分が置かれている境遇を思い出し、急いで目的地到着というもともとの責務のようなものに取り付かれた。
ああ、走らねば…
一歩を前に踏み出す。
彼はぼうっとしているうちにかなり遠くまで行ってしまっている。
もう、早いよ、まったく。

不思議な感覚だった。
二歩、三歩と踏み出すうちに、この妙な感覚に驚いてしまった。
なんなんだ、この感じ?
足が軽いんですけど。
例えるならば、まるで風車のようにくるくると足が回転するような…
春のアスファルトをはじくように、風を切り裂いて、まるで飛ぶように走る感覚、印象的な光景。

気付けば今まで体験したこともない、ものすごいダッシュで歩道を走っていた。(おかげであっという間に彼に追いついてしまった)

「え…あ?」
小さい疑問詞がこぼれた。
あるはずの息切れもない。
これは、この経験は一体なんだったんだ?
奇妙な体験の実感がわかぬうちに、彼は横を向き僕を見ると、にこっと
「ほれ、倫城ターミナル」
と言って左を指し示した。

倫城ターミナルはまるでコンクリートでできた日本家屋のような建築物だった。
白いグレイのこの建築物のアスファルトの庭園にはグレイのブレザーを着た人々がばらばらと点在していた。
ああ、アソバセリア校生たちである。

立っている者、座る者、たむろし語らう者…。
彼らは自分と同じく、望んでここに来たのではなく(望んできた者もたまにはいるかもしれないが自分には想像できない)、なかば強制的に、強引に入学を強いられ、なんのあてもなく、あの得体の知れない学校のようなもので今日から暮らせねばならないという、この不安を感じざるを得ない状況に置かれていているはずなのに、ばらばらと自分たちの空間をすでに生み出しつつある彼らは、おのおの妙に存在感があり、自信に満ちあふれて見えた。

どうして…?
彼らは自分と同じ条件のはずだろう?
この妙な力を彼らに与えてみせるのは、この重い「アソバセ」の征服のせい?

あたりからこちらに向けられたチクチクと刺さるような視線を感じる。
自分たちは観察されている…。
遠くでたむろしている男らから、花壇に腰を下ろし化粧をしている女から、いたるところで何かに目が合う。

なんという居づらい雰囲気。
監獄に到着する前からすでに囚人になった気分だ。
覚悟はしていたが、やはりひどい悪夢、大嫌いだ。


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