盲目王子と悪魔 その4
「なかなか勇気のあるガキじゃねえか。俺の姿を拝んだもんは皆、泣きわめえたり、逃げ回ったり、悪魔のこの俺を前にしてそう黙って突っ立ってる奴はなかなかいねえ」
「悪魔…!?」
王子様にはご覧になることはできませんでしたが、その悪魔は熊のように大きく、顔は豚のように醜くつぶれていて、口には長い牙が飛び出していました。
胴体も豚のように肥え、それを締め付けるように絹のタキシードを着込んでいるのですが、あちこちからどす黒い肉が飛び出していました。
背中からはその体につりあった巨大なこうもりのような羽が生えていて、それはばたばたとせわしなく動くのです。
もし王子様がこの醜い姿をご覧になったのなら、きっと叫び声を上げずにはいられなかったに違いありません。
「悪魔!?悪魔だって!?」
悪魔は王子様のご様子をその小さな目でじっと見つめると
「ああ、そうかお前、目が見えねえのか」とあざ笑うように囁きました。
「しかし、なかなか柔らかくて、うまそうなガキだ。いいデザートになりそうだ」
そう言い終わると悪魔は王子様を毛むくじゃらな手でつかんで、そのまだ獣の血でぬれた巨大な口へ運びこもうとしました。
「待ってくれ!話を聞いてくれ!」
王子様は必死で命乞いをしました。
そして自分がこの国の王子であったこと、父王を殺した家来たちのこと、復讐を果たすまで死んでも死にきれないこと、なにもかも全て悪魔に話しました。
「これはこれはなんたるご無礼を、王子様」
悪魔は聞き終わると王子様を優しく地面に降ろし、ちょこんと一礼して、頭のかぶった小さすぎるシルクハットを持ち上げました。
「こんなところでこのように高貴なお方に会えるとは、なんたる幸運、なんたる運命のいたずらでしょうか」
醜い悪魔はまるで紳士のように王子様に語りかけました。
王子様はご自分の胸のうちに長年溜め込み続けた思いを、この悪魔に訴えました。
父を殺し、自分から光を奪った家来たちへの怨みを、自分を見捨てた世間の冷たさを、目の見えぬ恐怖と苦しみを、王子様は心の底からふつふつと湧きあがる、どす黒い闇を全て吐きだしました。
そしてこう願いかけるのです。
「悪魔よ。もしお前に悪魔たるゆえんの力があるものならば、どうかこの目に再び光を与えてはくれまいか。もしこの願いを聞きとどけてくれるのなら、この血も肉も魂も何もかも全てお前にささげよう」
悪魔は王子様のおっしゃることを静かに聞いていました。
そして申し上げることには
「たやすいことです、王子様。私めの力があれば王子様の瞳に再び光を取り戻すことなど至極簡単簡単」と。
悪魔は自分の力を誇るようにがばがばといういう笑い声を漏らしながら、一通り満足すると、もったいなさそうに
「しかしそれには一つ材料が必要」
とぼそりと言いました。
「材料?それは何だ?」
王子様はたずねられました。
「それは王子様と同じ、人間のガキの目玉でございますよ」
悪魔はさらりと言うのです。
「私めがその目玉と王子様の目玉を取り替えてさしあげれば、王子様の目には、空の満天の星も、この私めのりりしい姿も、全て見渡すことができるでしょう」
悪魔は翼と両手を大きく広げて、まるで自分が全能のものでもあるかのように尊大に、申し上げるのでした。
「いいだろう。それだけでいいのだな?それさえあればきっと私の目を見えるものとしてくれるのだな」
ここにおいて、王子様は悪魔とご契約されたのです。
王子様は心の奥底から笑いがこみ上げてくるのがわかりました。
長年狂うように望んでは、手に入らないものと、あきらめかけていたものが今、自分のかた近く、手の届く場所へ、転がり落ちてきたように思われたからです。
まさに天恵、あの悪魔こそ自分が待ちわびた救い人に違いありません。
あとは必要な物を手に入れるだけ。
それは王子様にとってたいそう簡単なことのように思われました。
そう、あの気に入らない、くずでまぬけな従者の少年を、殺し、目玉をくりぬき奪うことなんて。
たったそれだけのことで、ご自身がかつて失ったもの、望み続けてやまなかったもの、全てが手に入るなんて!
前へ もどる 次へ







